「THE END OF EVANGELION」後の緒方・鶴巻両氏へのインタビュー。
衝撃的なラストシーンでのシンジの心情、鶴巻副監督のコンプレックスなどが垣間見る事ができる。
14歳の証言・その1
◆緒方恵美
シンジは「エヴァ」の物語の中ですごく成長したと思います。劇場版で彼は、「エヴァに乗りたくない」と言いますが、それは物語の最初のころの“子供のわがまま”の逃げではなく、いろいろ越えて経験してからの拒否で、言ってしまえば“大人の迷い”なんですよね。現実の世界で辛酸をなめた後の大人が、更に何かにぶつかったときの挫折のように、シンジだって大切な人たちを傷つけてしまったから拒否するわけで……。でも、彼は絶望感の果てにもう一度、人とかかわろうとした。それが彼の成長だったと思います。
今回の劇場版は、TV版に比べると“不親切”だったかもしれません。病室のシーンもベークライトのシーンも、もう少し彼の心理を説明する別のシーンがあればわかりやすかったかもしれませんね。でもそれをやらないのが庵野監督らしいなと思いました。監督は、自分を厳しく追いつめるタイプで、劇場版のシンジのセリフもそれを反映してか、本当はもっと内向きな感じだったんです。ただいくつかのセリフがどうしても胸に落ちてこなくて。ですから監督とご相談して、少しだけ能動的に変える作業をしました。
いつもは監督との最大公約数の中でシンジを演っているのですが、劇場版のラストシーンだけは監督に特別な演技指導をいただきました。具体的に言うと「初めて自分を自分で抱きしめてあげられた瞬間の“泣き”がほしい」のだと。TV版26話の「僕はここにいてもいいんだ」と同じ意味の“泣き”なんですね。パン!て殻が割れるように自分が変わった瞬間の、声にならない、涙も鼻水も涎も流れるままの……。そんな演技が出来る場をもらえたのが、役者として、本当に幸せだったなあと思います。
結局、周りの人がどうなったのかはみなさんのご想像にお任せしたいと思います。シンジ役の私としては、これでよかったなあと。だってシンジはもう一度現実を歩いていけると思うから。一度でも極限状態を体験して乗り越えた人は、強い。私もそうでしたが、10代はいっぱい悩んでぶつかって痛みを越えていく時期。いま10代の方々にも、そうしてステキな“大人”になってほしいと思います。
14歳の証言・その2
◆鶴巻和哉
僕が「エヴァ」で描きたかったのは、人間の普通の心理だったと思います。それは、愛の告白みたいなドラマチックな描写じゃなくて、人との会話で感じるちょっとしたすれ違いとか、言ってることと本心が違うとか、そういうもので、人が現実に暮らしていて感じる微妙な心理をアニメーションでやったら面白いなと思ったんです。
だからシンジに関しても、まずロボットに乗せることに苦労しました。ただの少年がいきなりロボットに乗って戦えと言われても、乗れないのが普通ですよね。自分が今シンジと同じ状況だったら、やっぱり躊躇するし。アニメの“お約束”ではなく、自分が感情移入できるキャラクターを作りたかったんです。
僕がシンジに共感したのは、父親とうまくコミュニケーションできないところです。誰でもそうだと思うけど、あのぐらいの年の男の子が、父親とちゃんとした会話なんてなかなかできないですよ(笑)。僕も中学3年間で父親と話したことっていったい何回あるんだろう。実は僕は、いまでも父親がだめなんですけどね(笑)。さすがにこの年になってまで、父親とまともに話をしないのは大人げないと思うから、たまに実家に帰ったら、いっしょに酒飲んだりして「どう? 最近」て、まるで苦手な上司とつきあうみたいにしてます(笑)。
人間てなかなか変われるもんじゃないと思いますね。だからシンジも劇的に成長したかというと、そうではないと僕個人は思ってる。たとえば彼が父親と、最後にちゃんとした親子関係が結べたかというと、どうかなって。19話では、確かに彼は「エヴァに乗せてください」と父親に宣言しますけど、その後に父と子が会話する場面は出てこない。本当のところはわかんないわけです。
でも僕はそれでいいと思ってます。別に成長しないのが悪いことではないと思うし。そういうところにこだわりたかったのかもしれない。
人間ていうのは、何度も同じことを繰り返して、わずかながらに変化していくだけの存在で、その変化も「成長」かどうかわからない、そんなものだと思うんですよ。まして物語はシンジの14歳の一時期だけを抽出したもので……。だから彼の成長も、僕の理想としては、階段を何段も昇るというより全話を通してほんの一段分、見えないような段差をゆるやかに進んでいく感じだったらなと。でも1話と最終話ではやっぱり違う、そんな“ささいな”成長になっていたとしたらうれしいです。

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